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對の上常の垣根のうちながら時々につけてこそ興ある朝夕のあそびに耳ふり目なれ給ひけれ。みかどよりとの物見をさをさし給はず。ましてかくみやこの外のありきはまだ習ひ給はねば珍しくをかしく思さる。

 「すみのえの松に夜ふかくおく霜は神のかけたるゆふかづらかも」。たかむらのあそんのひらの山さへといひける雪のあしたをおぼしやれば祭の心うせ給ふしるしにやといよいよたのもしくなむ。女御の君

 「神人の手にとりもたる榊葉にゆふかけ添ふるふかき夜の霜」。中務の君、

 「はふり子がゆふうちまがひおく霜はげにいちじるき神のしるしか」。つぎつぎ數知らず多かりけるを何せむにかは聞きおかむ。かゝるをりふしの歌は例の上手めき給ふ男達もなかなかいでぎえして松の千とせより離れて今めかしきことしなければうるさくてなむ。ほのぼのと明け行くに霜はいよいよ深くてもとすゑもたどたどしきまでゑひ過ぎにたる神樂おもてどものおのが顏をば知らで、おもしろきことに心はしみて、庭火もかげしめりたるになほまざいまざいと榊葉を取り返しつゝ祝ひ聞ゆる御世の末思ひやるぞいとゞしきや。萬の事あかずおもしろきままにちよをひとよになさまほしきよの何にもあらで明けぬればかへる浪にきほふも口惜しく若き人々おもふ。松原にはるばると立てつゞけたる御車どもの風に打ちなびくしたすだれのひまひまもときはのかげに花の錦を引き加へたると見ゆるに、うへのきぬのいろいろけぢめおきてをかしきかけばん取りつゞきて物參りわたすをぞ