Page:Kokubun taikan 02.pdf/81

提供:Wikisource
このページは校正済みです

かさの名高きかぎりを召したりける。御神樂のかたにはいと多く仕うまつれり。內、春宮、院の殿上人かたがたに分れて心寄せつかうまつる。數も知らずいろいろにつくしたる上達部の御馬くら、馬ぞひ、ずゐじん、こどねりわらは、つぎつぎのとねりなどまで整へ飾りたる見物またなきさまなり。女御殿對の上はひとつに奉りたり。次の御車には明石の御かた尼君忍びて乘り給へり。女御の御めのと心知りにて乘りたり。かたがたのひとだまひ上の御方の五つ女御殿の五つ明石の御あがれのみつ、目もあやに飾りたるさうぞく有樣いへば更なり。さるは尼君をば同じくは老の浪のしわのぶばかりに人めかしくてまうでさまむと院はのたまひけれどこの度はかく大方のひゞきに立ちまじらむもかたはらいたし、もし思ふやうならむ世の中を待ち出でたらばと御方はしづめ給ひけるをのこりの命うしろめたくてかつがつ物ゆかしがりてしたひ參り給ふなりけり。さるべきにてもとよりかく匂ひ給ふ御身どもよりもいみじかりけるちぎりあらはに思ひ知らるゝ人の御有樣なり。十月中の十日なれば神のいがきにはふくずも色かはりて松の下もみぢなどおとにのみ秋を聞かぬかほなり。ことごとしきこまもろこしのがくよりもあづまあそびの耳なれたるはなつかしくおもしろく浪風の聲に響きあひてさる小高き松風に吹き立てたる笛のねも外にて聞くしらべには變りて身にしみ、琴にうち合せたるひやうしもつゞみを離れてとゝのへとりたる方おどろおどろしからぬもなまめかしくすごうおもしろく所からはまして聞えけり。やまあゐにすれる竹のふしは松の綠に見えまがひかざしの花のいろいろは秋の草にことなるけぢめ分れで何