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へぬよろこびの淚ともすれば落ちつゝ目をさへのごひたゞして命長き嬉しげなるためしになりて物し給ふ。すみよしの御ぐわんかつがつはたし給はむとて春宮の女御の御いのりにまうで給はむとて、かの箱あけて御覽ずればさまざまのいかめしきことども多かり。年ごとの春秋のかぐらに必ず長き世のいのりを加へたるぐわんどもげにかゝる御勢ならでははたし給ふべき事ども思ひおきてざりけり。唯走り書きたるおもむきのざえざえしくはかばかしく佛神も聞き入れ給ふべき言の葉あきらかなり。いかでさるやまぶしのひじりこゝろにかゝる事どもを思ひよりけむと哀におほけなくも御覽ず。さるべきにて暫しかりそめに身をやつしける昔の世のおこなひびとにやありけむなどおぼしめぐらすにいとゞかるがるしくもおぼされざりけり。この度はこの心をば顯し給はず唯院のものまうでにて出で立ち給ふ。うらづたひの物さわがしかりしほどそこらの御ぐわんども皆はたし盡し給へれども、猶世の中にかくおはしましてかゝるいろいろのさかえを見給ふにつけても神の御たすけは忘れ難くて對の上もぐし聞えさせ給ひてまうでさせたまふ。ひゞき世の常ならずいみじくことどもそぎ捨てゝ世のわづらひあるまじくとはぶかせ給へどかぎりありければめづらかによそほしくなむ、上達部もおとゞふた所を置き奉りては皆つかうまつり給ふ。まひびとは衞府のすけどものかたち淸げにたけだちひとしきかぎりをえらせ給ふ。このえらびに入らぬをばはぢに憂へ歎きたるすきものどもありけり。べいじうも石淸水賀茂の臨時の祭などに召す人々の道々のことにすぐれたるかぎり整へさせ給へり。加はりたる二人なむこのゑづ