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の君をだに人わらへならぬさまにて見むと覺しの給ふ。みこの御おぼえいとやんごとなくうちにもこの宮の御心よせいとこよなくて、このことゝ奏し給ふことをばえそむき給はず心ぐるしきものに思ひ聞え給へり。大方も今めかしくおはする宮にてこの院大殿にさしつぎ奉りては、人も參り仕うまつり、世の人もおもく思ひ聞えけり。大將もさる世のおもしとなり給ふべきしたかたなれば、姬君の御おぼえなどてかはかるくはあらむ。聞え出づる人々ことに觸れて多かれどおぼしもさだめず。衞門督をさも氣色ばまばとおぼすべかめれど、猫には思ひおとし奉るにや、かけても思ひよらぬぞ口惜しかりける。母君のあやしく猶ひがめる人にて世の常のありさまにもあらずもてけち給へるを口惜しきものにおぼして、まゝはゝの御あたりをば心つけてゆかしく思ひて、今めきたる御心ざまにぞ物し給ひける。兵部卿の宮猶一所のみおはして、御心につけておぼしける事どもは、皆たがひて世の中もすさまじく人わらへにおぼさるゝに、さてのみやはあまえて過ぐすべきと覺してこのわたりに氣色ばみより給へれば大宮「何かはかしづかむと思はむ女子をば宮仕へにつぎてはみ子達にこそは見せ奉らめ、たゞ人のすくよかになほなほしきをのみ今の世の人のかしこくするしななきわざなり」とのたまひて、いたくも惱まし奉り給はずうけひき申し給ひつ。御子あまりうらみどころなきをさうざうしとおぼせど大方のあなづりにくきあたりなればえしもいひ過ぐし給はでおはしましそめぬ、いとになくかしづききこえ給ふ。大宮は女ごあまた物し給ひて、さまざま物なげかしき折々多かるに物こりもしぬべけれど猶この君のことの思ひ放