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しにてまほに見え給ふこともなし。かゝる御なからひにだにけどほくならひたるを、ゆくりかに怪しくはありしわざぞかしとは、さすがにうち覺ゆれど、おぼろげにしめたる我が心から淺くも思ひなされず。春宮に參り給ひて、ろなうかよひ給へる所あらむかしと目とゞめて見奉るに匂ひやかになどはあらぬ御かたちなれどさばかりの御有樣はた、いとことにてあてになまめかしくおはします。うちの御猫の數多ひきつれたりけるはらからどもの所々にあがれて、この宮にも參れるがいとをかしげにてありくを見るにまづ思ひ出でらるれば「六條の院の姬宮の御方に侍る猫こそいと見えぬやうなる顏して、をかしうはべりしか、はつかになむ見給へし」と啓し給へば、猫わざとらうたくせさせ給ふ御心にてくはしく問はせ給ふ。「から猫のこゝのにたがへるさましてなむ侍りし。同じやうなるものなれど心をかしく人なれたるは怪しくなつかしきものになむ侍る」などゆかしくおぼさるばかり聞えなし給ふ。きこし召しおきて桐壺の御方より傳へて聞えさせ給ひければ參らせ給へり。げにいと美しげなる猫なりけりと人々けうずるを、衞門督は尋ねむとおぼしたりきと御けしきを見置きて、日比へて參り給へり。わらはなりしより朱雀院のとりわきておぼしつかはせ給ひしかば、御山ずみにおくれ聞えては又この宮にもしたしう參り心よせ聞えたり。御琴など敎へ聞え給ふとて御猫ども數多集ひ侍りにけり。「いづら好みし人か」と尋ねて見つけ給へり。いとらうたく覺えてかきなでつゝ居たり。宮も「げにをかしきさましたりけり。心なむまだなつきがたきは見馴れぬ人を知るにやあらむ、こゝなる猫どもことに劣らずかし」とのたま