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り給ひぬ。宮も居直り給ひて御物語し給ふ。つぎつぎの殿上人はすのこにわらうだめしてわざとなくつばいもちひ、なし、かうじやうのものどもさまざまに箱の蓋どもにとりまぜつゝあるを若き人々そぼれとりくふ。さるべきからものばかりして御かはらけまゐる。衞門督はいといたく思ひしめりて、やゝもすれば花の木に目をつけてながめやる。大將は心知りに怪しかりつる御簾のすきかげ思ひ出づる事やあらむと思ひ給ふ。いと端近なりつる有樣をかつはかろがろしと思ふらむかし。いでやこなたの御有樣のさはあるまじかめるものをと思ふに、かゝればこそ世のおぼえの程よりは內々の御志ぬるきやうにはありけれと思ひ合せて猶うちとの用意多からず、いはけなきはらうたきやうなれどうしろめたきやうなりやと思ひおとさる。宰相の君は萬の罪をもをさをさたどられず覺えぬ物のひまよりほのかにもそれと見奉りつるにも、我が昔よりの志のしるしあるべきにやと契嬉しき心地して、飽かずのみおぼゆ。院は昔物語しいで給ひて「おほきおとゞの萬の事にたちならびてかちまけのさだめし給ひし中に鞠なむ得及ばずなりにし、はかなきことは傅へあるまじけれど、ものゝすぢは猶こよなかりけり。いとめも及ばずかしこうこそ見えつれ」とのたまへば、うちほゝゑみて「はかばかしき方にはぬるく侍る家の風のさしも吹き傳へ侍らむに、後の世のため、殊なることなくこそ侍りぬべけれ」と申し給へば、「いかでか、何事も人に異なるけぢめをばしるし傳ふべきなり。家の傳へなどに、かきとゞめ入れたらむこそ、けうはあらめ」など、たはぶれ給ふ。御さまの匂ひやかに淸らなるを見奉るにも、かゝる人にならひていかばかりのこ