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へる人あり。端より西の二の間のひんがしのそばなれば紛れ所もなくあらはに見入れらる。紅梅にやあらむ濃き薄き、すぎすぎにあまた重りたるけぢめ、はなやかに草紙のつまのやうに見えて櫻の織物のほそながなるべし、御くしのすそまでけざやかに見ゆるは絲をよりかけたるやうになびきてすそのふさやかにそがれたるいと美しげにて七八寸ばかりぞ餘り給へる。御ぞのすそがちにいとほそくさゝやかにて姿つき髮のかゝり給へるそばめいひしらずあてにらうたげなり。夕かげなればさやかならず奧暗き心地するもいと飽かず口をし。鞠に身をなぐる若公達の花のちるを惜しみもあへぬ氣色どもを見るとて、人々あらはをふともえ見つけぬなるべし。猫のいたくなけば見返り給へるおもゝちもてなしなどいとおいらかにて若くうつくしの人やとふと見えたり。大將いとかたはらいたけれどはひよらむもなかなかいとかるがるしければ、唯心を得させてうちしはぶき給へるにぞやをらひき入り給ふ。さるは我がこゝちにもいと飽かぬこゝちし給へど猫のつなゆるしつれば心にもあらず打ちなげかる。ましてさばかり心をしめたる衞門督は胸つとふたがりて誰ばかりにかはあらむこゝらの中にしるきうちきすがたよりも人に紛るべくもあらざりつる御けはひなど心にかゝりて覺ゆ。さらぬ顏にもてなしたれどまさにめとゞめじやと大將はいとほしくおぼさる。わりなきこゝちのなぐさめに猫を招きよせてかきいだきたればいとかうばしくてらうたげに打ちなくもなつかしく思ひよそへらるゝぞすきずきしきや。おとゞ御覽じおこせて「上達部のざいとかろがろしや、こなたにこそ」とて對の南面に入り給へれば皆そなたに參