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て、「今朝大將の物しつるは何方にぞ、いとさうざうしきを、例の小弓射させて見るべかりけり。このむめるわかうどゝもゝ見えつるを、ねたういでやしぬる」と問はせ給ふ。大將の君は丑寅の町に人々數多して、まもりてあそばして見給ふときこしめして、「みだりがはしきことのさすがに目さめてかどかどしきぞかし。いづらこなたに」とて御せうそこあれば參り給へり。わかきんだちめく人々多かりけり。「鞠持たせ給へりや誰々か物しつる」との給ふ。「これかれ侍りつ此方へまかでむや」との給ひて、寢殿のひんがしおもて桐壺は若宮具し奉りて參り給ひにし頃なればこなたはかくろへたりけり。やりみずなどのゆきあひはれてよしあるかゝりの程をたづねて立ち出づ。おほきおほいどのゝ君達、頭辨、兵衞佐、大夫の君など過したるも又かたなりなるもさまざまに人よりまさりて好み物し給ふ。やうやう暮れかゝるに風吹かずかしこき日なりと興じて辨の君もえ靜めず立ちまじれば、おとゞ「辨官もえをさめあへざめるを、上達部なりとも若きゑふづかさたちはなどか亂れ給はざらむ、かばかりのよはひにては怪しく見すぐす口惜しく覺えしわざなり。さるはいときやうぎやうなりや、このことのさまよ」などのたまふに、大將もかんの君も皆おり居てえならぬ花の影にさまよひ給ふ。夕ばへいと淸げなり。をさをささまよくしづかならぬ亂れごとなめれど所から人がらなりけり。故ある庭の木立のいたく霞籠めたるにいろいろのひも解き渡る花の木ども、わづかなるもえぎのかげにかくはかなきことなれど善き惡しきけぢめあるをいどみつゝ我れも劣らじと思ひ顏なる中に、衞門督のかりそめに立ちまじり給へる足もとにならぶ人なかりけ