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しろめたくおぼゆ。おはせぬよしをいへど晝の使の一所など問ひ聞きたるべし。いとこと多く恨みて「御聲も聞き侍らじ。唯け近くて聞えむことを聞きにくしともおぼしことわれ」とよろづにいひ侘びて「いと心うく所につけてこそ物の哀もまされ。あまりかゝるは」などあばめつゝ、

 「山里のあきの夜ふかきあはれをも物思ふ人はおもひこそ知れ。おのづから御心も通ひぬべきを」などあれば、「尼君おはせでまぎらはし聞ゆべき人も侍らず。いと世づかぬやうならむ」とせむれば、

 「うきものと思ひも知らですぐす身を物思ふ人とひとは知りけり」。わざといふともなきを聞きて傳へ聞ゆればいと哀と思ひて「猶唯聊いで給へ」と聞えうごかせど、この人々をわりなきまで恨み給ふ。「怪しきまでつれなくぞ見え給ふや」とて入りて見れば、例はかりそめにもさし覗き給はぬ老人の御方に入り給ひにけり。あさましう思ひて「かくなむ」と聞ゆれば「かゝる所にながめ給ふらむ心の中の哀に大かたの有樣なども情なかるまじき人の、いとあまり思ひ知らぬ人よりもけにもてなし給ふめるこそ、それも物ごりし給へるが猶いかなるさまに世を恨みていつまでおはすべき人ぞ」など有樣問ひていとゆかしげにのみおぼいたれど、「こまかなる事はいかでかは言ひ聞かせむ。唯知り聞え給ふべき人の年比はうとうとしきやうにて過ぐし給ひしを、初瀨に詣うであひ給ひて尋ね聞え給へる」とぞいふ。姬君はいとむつかしとのみ聞く。おい人のあたりにうつぶしふしていも寢られず、よひまどひは