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きもの侍り。今又聞え知らせ侍らむ」と女御には聞え給ふ。そのついでに「今はかくいにしへの事をもたどり知り給ひぬれど、あなたの御心ばへをおろかに覺しなすな。もとよりさるべき中えさらぬむつびよりも橫ざまのなげの哀をもかけ、ひとことの心よせあるはおぼろげのことにもあらず。ましてこゝになどさぶらひなれ給ふを、みるみるも初めの志かはらず深くねんごろに思ひ聞えたるを、いにしへの世のたとへにもさこそはうはべにははぐゝみげなれど、らうらうしきたどりあらむもかしこきやうなれど、猶あやまりても我がためしたの心ゆがみたらむ人を、さも思ひよらずうらなからむためは引き返し哀にいかでかゝるにはと、罪得がましきにも思ひなほる事もあるべし。おぼろげの昔の世のあだならぬ人は違ふふしぶしもあれど、ひとりひとり罪なき時にはおのづからもてなほすためしともあるべかめり。さしもあるまじきことにかどかどしく癖をつけ、あいきやうなく人をもてはなるゝ心あるはいと打ち解けがたく思ひくまなきわざになむあるべき。多くはあらねど人の心のとあるさまかゝるおもむきを見るに、ゆゑよしといひさまざまに口惜しからぬきはの、心ばせあるべかめり。皆おのおの得たる方ありて取る所なくもあらねど、又とりたてゝ我が心うしろみに思ひ、まめまめしく選び思はむにはありがたきわざになむ、唯誠の心のくせなく、善き事はこの對をのみなむ、これをぞおひらかなる人といふべかりけるとなむ思ひ侍る。よしとて又あまりひたゝけて賴もしげなきもいと口惜しや」とばかりの給ふに、かたへの人は思ひやられぬかし。「そこにこそ少し物の心得て物し給ふめるを、いとよくむつびかはしてこの御