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ゝ皆うちとけ住みつゝはるばると多かる對ども廊渡殿にみちたり。左大臣殿昔の御けはひにも劣らずすべて限もなくいとなみ仕うまつりたまふ。嚴めしうなりにたる御ぞうなればなかなかいにしへよりも今めかしきことはまさりてさへなむありける。この宮例の御心ならば月比の程にいかなるすきごとどもをしいで給はまし。こよなくしづまり給ひて人めには少しおひなほりし給ふかなと見ゆるを、このころぞ又宮の君に、本性あらはれてかゝづらひありき給ひける。凉しくなりぬとて宮內に參り給ひなむとすれば秋のさかり紅葉の比を見ざらむこそなど若き人々は口惜しがりて皆參りつどひたるころなり。水になれ月をめでゝ御あそび絕えず、常よりも今めかしければ、この宮ぞかゝるすぢはいとこよなくもてはやし給ふ。朝夕めなれても猶今見む初花のさまし給へるに、大將の君はいとさしも入りたちなどし給はぬほどにてはづかしう心ゆるびなきものに皆思ひたり。例の二所參り給ひて御前におはする程に、かの侍從は物より覗き奉るに、いづ方にもいづかたにもよりてめでたき御宿世見えたるさまにて世にぞおはせましかし。あさましくはかなく心うかりける御心かななど人にはそのわたりのことかけてしり顏にもいはぬことなれば心ひとつに飽かず胸いたく思ふ。宮はうちの御物語などこまやかに聞えさせ給へば今一所はたち出で給ふ。見つけられ奉らじ、しばし御はてをも過さず心淺しと見え參らじと思へば隱れぬ。ひんがしの渡殿にあきあひたる戶口に人々あまた居て物語など忍びやかにする所におはして「某をぞ女房はむつまじとおぼすべきや。女だにかく心やすくはよもあらじかし。さすがにさるべからむこ