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侍らぬを、かく品定り給へるにおぼし捨てさせ給へるやうに思ひて心ゆかぬ氣色のみ侍るをかやうのもの時々ものせさせ給はなむ。なにがしがおろしてもてまからむ、はた見るかひも侍らじかし」と聞え給へば「怪しくなどてか捨て聞え給はむ。內にては近かりしにつきて時々も聞えかよひ給ふめりしを、所々になり給ひし折にとだえそめ給へるにこそあらめ。今そゝのかし聞えむ。それよりもなどかは」と聞え給ふ。「かれよりはいかでかは。もとより數まへさせ給はざらむをもかくしたしくして侍ふべきゆかりによせておぼし召しかずまへさせ給はむをこそ嬉しくは侍るべけれ。ましてさも聞えなれ給ひにけむを今捨てさせ給はむはからき事に侍り」と啓せさせ給ふをすきばみたる氣色あるかとはおぼしかけざりけり。立ちいでゝ一夜の志の人にあはむ、ありし渡殿もなぐさめに見むかしとおぼして御前をあゆみ渡りて西ざまにおはするを、御簾のうちの人は心ことに用意す。げにいとさまよく限なきもてなしにて渡殿の方は左のおほい殿の君達など居て物いふけはひすれば、妻戶の前に居給ひて「大方にはまゐりながらこの御方のげざんに入る事のかたく侍れば、いとおぼえなくおきなびはてにたる心地しはべるを、今よりはと思ひおこし侍りてなむ。ありつかず若き人どもぞ思ふらむかし」と甥の君達の方を見やり給ふ。「今よりならはせ給ふこそげに若くならせ給ふならめ」などはかなきことをいふ。人々のけはひもあやしうみやびかにをかしき御方の有樣にぞある。その事となけれど世の中の物語などしつゝ、しめやかに例よりは居給へり。姬宮はあなたに渡らせ給ひけり。「大宮大將のそなたに參りつるか」と問ひ給ふ。「御供に