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にて、すゞろなることおぼしいらるのみなむ、罪深かりける。雪俄に降りみだれ、風など烈しければ御あそび疾くやみぬ。この宮の御とのゐどころに人々參り給ふ。物まゐりなどして、うちやすみ給へり。大將人に物のたまはむとて、すこしはし近く出で給へるに、雪やうやうつもり、星の光におぼおぼしきを、やみはあやなしと覺ゆるにほひありさまにて、「衣かたしきこよひもや」とうちずじ給へるも、はかなきことを口すさびにのたまへるも怪しく哀なる氣色そへる人ざまにて、いと物深げなり。ことしもこそあれと宮はねたるやうにて御心さわぐ、おろかには思はぬなめりかし。かたしく袖を我のみ思ひやる心地しつるを、同じ心なるも哀なり、侘しくもあるかな、かばかりなる本つ人をおきて、我が方にまさる思ひは、いかでかつくべきぞと妬うおぼさる。つとめて雪のいと高う積りたるに、文奉り給はむとてお前に參り給へる御かたち、この頃いみじくさかりに淸げなり。かの君も同じほどにて、今ふたつみつまさるけぢめにや少しねびまされる氣色用意などぞ殊更にも作りたらむやうに、あてなる男のほんにしつべく物し給ふ。みかどの御聟にてあかぬことなしとぞ世の人もことわりける。さえなども、おほやけおほやけしきかたも後れずぞおはすべき。文講じ果てゝ皆人まかで給ふ。宮の御文を勝れたりとずじ罵れど、なにとも聞き入れ給はず、いかなる心地にて、かゝる事をもしいづらむと空にのみ思ほしほれたり。かの人の御氣色にもいとゞ驚かれ給ひければ、あさましうたばかりておはしましたり。京には友待つばかり消え殘りたる雪、山深く入るまゝにやゝ降り積りたり。常よりも、わりなきまれの細道をわけ給ふ程、御供の