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はむとするにかと、うきて怪しう覺ゆ。殿は京に御文書き給ふ。「まだなりあはぬ佛の御飾など見給へおきて、けふよろしき日なりければ、急ぎ物し侍りて、みだり心地のなやましきに、物忌なりけるを思ひ給へ出でゝなむ、けふあすこゝに愼み侍るべき」など、母宮にも姬宮にも聞え給ふ。打ち解けたる御有樣今少しをかしくて、入りおはしたるもはづかしけれど、もてかくすべくもあらで居給へり。女の御さうぞくなど、いろいろによくと思ひてしかさねたれど、少し田舍びたることもうちまじりてぞ、昔のいとなえばみたりし御姿の、あてになまめかしかりしのみ思ひいでられて、髮のすそのをかしげさなどは、こまごまとあてなり。宮のみぐしのいみじくめでたきにも、劣るまじかりけりと見給ふ。かつはこの人をいかにもてなしてあらせむとすらむ、只今ものものしげにて、かの宮にむかへすゑむも、おとぎゝびんなかるべし。さりとてこれかれあるつらにて、おほぞうにまじらはせむはほいなからむ。しばしこゝにかくしてあらむと思ふも、見ずばさうざうしかるべく、哀におぼえ給へば、おろかならず語らひ暮し給ふ。故宮の御ことものたまひ出でゝ、昔物語をかしうこまやかにいひ戯ぶれ給へど唯いとつゝましげにてひた道に耻ぢたるを、さうざうしうおぼす。誤りてもかう心もとなきはいとよし、敎へつゝも見てむ、田舍びたるざれ心もてつけて、しなじなしからず、はやりかならましかばしも、かたしろふようならましと思ひなほし給ふ。こゝにありけるきん、さうのこと召し出でゝ、かゝることはた、ましてえせじかしと口惜しければ、ひとりしらべて、宮うせ給ひて後、こゝにてかゝるものに、いと久しう手觸れざりつかしと、めづら