Page:Kokubun taikan 02.pdf/52

提供:Wikisource
このページは校正済みです

給ひぬ。此方はかくれの方にて唯けぢかき程なるに、いかめしき御うぶやしなひなどのうちしきりひゞきよそほしき有樣、げにかひある浦と尼君のためには見えたれど、儀式なきやうなれば渡り給ひなむとす。對の上も渡り給へり。しろき御さうぞくし給ひて人の親めきて若宮をつと抱き居給へるさまいとをかし。みづからかゝること知り給はず、人の上にても見習ひ給はねばいと珍らかに美くしと思ひ聞え給へり。むつかしげにおはする程を絕えず抱きとり給へば、まことのをば君は唯まかせ奉りて、御湯殿のあつかひなどを仕う奉り給ふ。春宮の宣旨なる內侍のすけぞ仕うまつる。御むかへゆにおりたち給へるもいとあはれにうちうちのこともほのしりたるに、少しかたほならばいとほしからましを、あさましくけだかくげにかゝる契ことにものし給ひける人かなと見聞ゆ。その程の儀式などもまねびたてむにいと更なりや。六日といふに例のおとゞに渡り給ひぬ。七日の夜うちよりも御うぶやしなひのことあり。朱雀院のかく世を捨てゝおはします御かはりにや、藏人所より頭辨、宣旨うけたまはりて珍らかなるさまに仕うまつれり。祿のきぬなど又中宮の御方よりも、おほやけごとにはたちまさりいかめしくせさせ給ふ。次々のみ子達大臣の家々そのころのいとなみにてわれもわれもと淸らを盡して仕うまつり給ふ。おとゞの君もこの程のことゞもは例のやうにもことそがせ給はで、世になく響きこちたき程にうちうちのなまめかしくこまかなるみやびのまねび傅ふべきふしは目もとまらずなりにけり。おとゞの君も若宮を程なく抱き奉り給ひて、大將の數多まうけたなるを今まで見せぬがうらめしきにかくらうたき人を添へ