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は止みにたり。こゝにてはいかゞ見ゆると、まだ打ち解けたるさま見ぬにと思ひて、のどかに居給へる晝つかた、こなたに渡りてものよりのぞく。白き綾のなつかしげなるに、今やう色のうちめなども淸らなるを着て、はしの方にせんざい見るとてゐたるは、いづくかはおとる、いと淸げなめるはと見ゆ。むすめまだかたなりに、何心もなきさまにて添ひ臥したり。宮のうへの並びておはせし御さまどもの、思ひ出づれば、口惜しのさまどもやと見ゆ。前なるごだちに物など言ひ戯ぶれて打ち解けたるは、いと見しやうににほひなく、人わろげにも見えぬを、かの宮なりしは、こと少將なりけりと思ふ折しもいふことよ、「兵部卿の宮の萩の、猶殊におもしろくもあるかな。いかでさる種ありけむ、同じ枝さしなどの、いと艷なること、一日參りて出で給ふ程なりしかば、え折らずなりにき。ことだに惜しきと、宮のうちずじ給へりしを若き人たちに見せたらましかば」とて我も歌よみ居たり。いでや心ばせの程を思へば人とも覺えず、いでぎえは、いとこよなかりけるに何事いひ居たるぞとつぶやかなれど、いと心地なげなるさまは、さすがにしたらねば、いかゞいふとて、こゝろみに、

 「しめゆひし小萩がうへもまよはぬにいかなる露にうつる下葉ぞ」とあるに、いとほしく覺えて、

 「宮城野の小萩がもとゝ知らませばつゆも心をわかずぞあらまし。いかでみづから聞えさせあきらめむ」といひたり。故宮の御事聞きたるなめりと思ふにいとゞいかで人とひとしくとのみ思ひあつかはる。あいなう大將殿の御さまかたちぞ戀しう面影に見ゆる。同じうめ