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人々もおのおの打ちやすみなどしてお前には人もなし。ちひさきわらはのあるして、「をり惡しき御ゆするの程こそ見苦しかめれ、さうざうしくてやながめむ」と聞え給へば、げにおはしまさぬひまひまにこそ例はすませ、怪しう日頃も物うがらせ給ひて、けふ過ぎばこの月は日もなし。ながつきかみなづきいかでかはとて、仕うまつらせつるを」と大輔いとほしがり、若君も寢給へりければ、そなたにこれかれある程に、宮はたゝずみありき給ひて西の方に例ならぬわらはの見えつるを今まゐりのあるかなどおぼして、さしのぞき給ふ。中の程なるさうじのほそめにあきたるより見給へば、さうじのあなたに一尺ばかり引きさげて屛風立てたり。そのつまに几帳簾に添へて立てたり。かたびらひとへを打ちかけて、しをんいろの花やかなるに女郞花の織物と見ゆるかさなりて袖口さし出でたり。屛風のひとひらたゝまれたるより、心にもあらで見ゆるなめり。今まゐりの口惜しからぬなめりとおぼして、この廂に通ふさうじを、いとみそかにおしあけ給ひて、やをら步みより給ふも人知らず。こなたの廊のなかの坪せんざいのいとをかしういろいろに咲き亂れたるに、やりみづのわたりの石高き程いとをかしければ、はし近くそひ臥して眺むるなりけり。あきたるさうじを今少し押し開けて屛風のつまよりのぞき給ふに、宮とは思ひもかけず、例こなたに來馴れたる人にやあらむと思ひて、起きあがりたるやうだい、いとをかしう見ゆるに、例の御心はすぐし給はで、きぬの裾をとらへ給ひて、こなたのさうじ引きたて給ひて屛風のはざまに居給ひぬ。あやしと思ひて、扇をさしかくして見返りたるさまいとをかし。扇を持たせながら、とら