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ども、いかに立ち騷ぎもとめ侍らむ。さすがに心あわたゞしく思ひ給へらるゝ。かゝる程の有樣に身をやつすは口惜しきものになむ侍りけると、身にも思ひ知らるゝを、この君は唯任せ聞えさせて知り侍らじ」などかこち聞えかくれば、げに見苦しからでもあらなむと見給ふ。かたちも心ざまも、えにくむまじうらうたげなり。物はぢもおどろおどろしからず、さまよう子めいたるものから、かどなからず、近く侍ふ人々にも、いとよく隱れて居給へり。物などいひたるも、昔の人の御さまに怪しきまで覺え奉りてぞあるや。かの人がたもとめ給ふ人に見せ奉らばやと打ち思ひ出で給ふをりしも、大將殿參り給ふと人聞ゆれば、例の御几帳引きつくろひて心づかひす。このまらうどの母君「いで見奉らむ、ほのかに見奉りける人の、いみじきものに聞ゆめれど、宮の御有樣にはえならびたまはじ」といへば、御前に侍ふ人々いさやえこそ聞え定めね」と聞えあへり。「むかひておはせしさま、宮はいとなさけなげに、見にくゝこそ見え給ひしか。とり放ちては、いづれもともかくも分れず、かたちよき人は人をけつこそにくけれ」とのたまへば、人々わらひて、「されどお前にはおされ奉り給はざめり。いかばかりならむ人か、宮をばけち奉らむ」などいふ程に、今ぞ車よりおり給ふなりと聞く程かしかましきまでおひのゝしりて、とみにも見え給はず。またれたる程に、步み入り給ふさまを見れば、げにあなめでた、をかしげとも見えずながらぞ、なまめかしうあてに淸げなるや。すゞろに見えぐるしうはづかしくて、額髮なども引きつくろはれて心はづかしげに、用意多くきはもなきさまぞし給へる。うちより參り給へるなるべし。御前どものけはひ