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めのとなどもてあそび聞ゆ。人々參りあつまれど、なやましとて大殿籠りくらしつ、御臺こなたにまゐる。萬のことけだかく心ことに見ゆれば、我がいみじき事を盡すと見思へどなほなほしき人のあたりは、口惜しかりけりと思ひなりぬれば、我が娘もかやうにてさし並べたらむにかたはならじかし、ゆだけき勢ひをたのみて、父ぬしの、后にもなしてむと思ひたる人々は、おなじ我が子ながら、けはひこよなきをおもふも、猶今よりのちも心はたがふべかりけりと、夜一夜あらましごとに思ひつゞけゝり。宮日たけて起き給ひて、きさいの宮例のなやましくし給へば、まゐるべしとて御さうぞくなどし給ひておはす。ゆかしう覺えてのぞけば、うるはしく引きつくろひ給へる、はた似るものなく、けだかくあいぎやうつき淸らにて、若君をえ見捨て給はで、もてあそびおはす。御かゆこはいひなど參りてぞ、こなたより出で給ふ。けさよりまゐりて、さぶらひの方にやすらひける人々今ぞ參りて物など聞ゆる中に、淸げだちて、なでふことなき人のすさまじき顏したる、なほし着て太刀佩きたるあり。お前にて何とも見えぬを、「かれぞこの常陸のかみの婿の少將な。初はこの御方にと定めけるを、かみの娘をえてこそいたはられめなどいひて、かじけたるめのわらはをえたるなゝり。いさこの御あたりの人はかけてもいはず、かむの君の方より、よくきくたよりのあるなり」と、おのがどちいふ。聞くらむとも知らで、人のかくいふにつけても胸つぶれて、少將をめやすき程と思ひける心も口をしく、げに異なることなかべかりけりと思ひて、いとゞしくあなづらはしく思ひなりぬ。若君のはひ出でゝ御簾のつまより覗き給へるをうち見給ひて、