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方につぼねしたり。年頃かく遙なりつれど、踈くおぼすまじき人なれば、參るときは耻ぢ給はず、いとあらまほしくけはひことにて若君の御あつかひをしておはする、御有樣うらやましく覺ゆるもあはれなり。我も故北の方には離れ奉るべき人かは、仕うまつるといひしばかりに、かずまへられ奉らず口惜しくて、かく人にはあなづらるゝと思ふには、かくしひて睦び聞ゆるもあぢきなし。こゝには御物忌といひてければ人もかよはず、二三日ばかり母君も居たり。こたみは心のどかに、この御ありさまを見る。宮わたり給ふ。ゆかしくて物のはざまより見れば、いと淸らに櫻を折りたるさまし給ひて我がたのもし人に思ひて、つらううらめしけれど、心には違はじと思ふ。常陸守よりさまかたちも人のほどもこよなく見ゆる、五位四位ども、あひひざまづき侍ひて、この事かの事と、あたりあたりの事ども啓し、供などまうす。又若やかなる五位ども、顏も知らぬ供も多かり。わが繼子の式部のぞうにて藏人なる、內の御使にて參れり。御あたりにもえ近く參らず、こよなき人の御けはひを、あはれこは何人ぞ、かゝる御あたりにおはするめでたさよ、よそに思ふ時は、めでたき人々と聞ゆとも、つらき目見せ給はゞと物うく推し量り聞えさせつらむあさましさよ、この御有樣かたちを見れば、七夕ばかりにても、かやうに見奉りかよはむは、いといみじかるべきわざかなと思ふに、若君抱きてうつくしみおはす。女君短き几帳を隔てゝ座するを推しやりて物など聞え給ふ。御かたちどもいと淸らに似合ひたり。故宮のさびしくおはせし御有樣を思ひくらぶるに、宮達と聞ゆれど、いとこよなきわざにこそありけれと覺ゆ。几帳の內に入り給ひぬれば若君は