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なくて、かたみにちりぼはむも、なき人の御ために見苦しかるべきわざを、覺し煩ふ。たいふがもとにも、いと心苦しげにいひやりたりければ、「さるやうこそは侍らめ、人にくゝはしたなくもなの給はせそ。かゝるおとりの物の人の御中にまじり給ふも世の常のことなり。あまりいとなさけなくの給ふまじき事なり」など聞えて、「さらばかの西の方にかくろへたる所し出でゝ、いとむつかしげなめれど、さてもすぐい給ひつべくば、しばしの程」といひつかはしつ。いと嬉しと思ほして人知れず出でたつ。御方もかの御あたりをば、むつび聞えまほしと思ふ心なれば、なかなかかゝる事どもの出で來たるを、うれしと思ふ。かみ少將のあつかひを、いかばかりめでたきことをせむと思ふに、そのきらきらしかるべき事も知らぬ心には、唯あらゝかなるあづまぎぬどもを、おしまろがして投げ出でつ。くひものも所せきまでなむ運び出でゝのゝしりけるを、げすなどは、それをいとかしこきなさけに思ひければ、君もいとあらまほしく、心かしこくとりよりにけりと思ひけり。北の方この程を見捨てゝ、知らざらむもひがみたらむと思ひ念じて、唯するまゝに任せて見居たり。まらうどの御でゐさぶらひとしつらひさわげば、家はひろけれど源少納言東の對にはすむ。をのこゞなどの多かるに所もなし。この御方にまらうどすみつきぬれば、らうなどほとりばみたらむにすませ奉らむも飽かずいとほしくおぼえて、とかく思ひめぐらす程、宮にとは思ふなりけり。この御方ざまにかずまへ給ふ人のなきを、あなづるなめりと思へば、ことにゆるい給はざりしあたりを、あながちに參らす。めのと若き人々、二三人ばかりして西の廂の北に寄りて、人げ遠き