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きものに思ひかしづき奉り給ふなりけり。唯中のこのかみにて年もおとなび給ふを心苦しき事に思ひて、そなたにとおもむけて申されけるなり」と聞ゆ。月頃は又なく、よのつかならずかしづくといひつるものゝ、うちつけにかくいふもいかならむと思へども、猶ひとわたりはつらしと思はれ、人には少し譏らるともながらへて賴もしきことをこそと、いとまたくかしこき君にて思ひとりてければ、日をだにとりかへで契りし暮にぞおはしはじめける。北の方は人知れずいそぎ立ちて人々のざうぞくせさせ、しつらひなどよしよししうし給ふ。御方をもかしら洗はせ取りつくろひて見るに、少將などいふ程の人に見せむもをしくあたらしきさまを、哀や親に知られ奉りておひたち給はましかば、おはせずなりにたりとも、大將殿ののたまふらむさまに、おほけなくともなどかは思ひ立たざらまし、されどうちうちにこそかく思へ、ほかのおとぎゝはかみの子とも思ひわかず、またじちを尋ね知らむ人もなかなかおとしめ思ひぬべきこそ悲しけれなど思ひつゞく。いかゞはせむ、盛過ぎ給はむもあいなし。賤しからずめやすき程の人のかくねんごろにのたまふめるを、など心ひとつに思ひ定むるも、なかだちのかくことよくいみじきに、女はましてすかされたるにやあらむ。あすあさてと思へば心あわたゞしくいそがしきに、こなたにも心のどかに居られたらず、そゝめきありくに、かみとより入り來て、ながながと滯る所もなく言ひ續けて「我を思ひ隔てゝ、あこの御懸想びとを奪はむとし給ひけるが、おほけなく心をさなきこと、めでたからむ御むすめをば、ようぜさせ給ふ君達あらじ、賤しくことやうならむなにがし等か女ごをこそ賤しうも尋