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おのおのしたり顏なりけれど、例のいかに怪しげにふるめいたりけむと思ひやれば、あながちに皆も尋ねかゝず。かみのまちも上臈とて御口つきどもは異なること見えざめれど、しるしばかりとて、一つ二つぞ問ひ聞きたりし。これは大將の君のおりて御かざしをりて參り給へりけるとか。

 「すべらぎのかざしにをると藤の花およばぬえだに袖かけてけり」。うけばりたるぞにくきや。

 「よろづ世をかけてにほはむ花なればけふをもあかぬ色とこそみれ」。またたれとか、

 「君がためをれるかざしは紫の雲におとらぬ花のけしきか」。

 「世のつねの色とも見えず雲井までたちのぼりける藤なみの花」。これやこのはらだつ大納言のなりけむとこそ見ゆれ。かたへはひがごとにもやありけむ、かやうにことなるをかしきふしもなくのみぞあなりし。夜ふくるまゝに御あそびいとおもしろし。大將の君の、あなたふと謠ひ給へる聲ぞ限なくめでたかりける。按察も昔勝れ給へりし御聲のなごりなれば今もいとものものしうてうちあはせ給へり。左のおほい殿の御七郞、わらはにてさうの笛ふく、いと珍しかりければ御ぞたまはす。おとゞおりて舞踏し給ふ。曉近くなりてなむ歸らせ給ひける。祿ども、上達部、みこ達にはうへよりたまはす。殿上人がくその人々には宮の御方より品々に賜ひけり。そのよさりなむ宮まかでさせ奉り給ひける。儀式いと心ことなり。うへの女房さながら御送仕うまつらせ給ひける。ひさしの御車にて、ひさしなき糸毛三つ、び