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もしろう遊ぶ。宮の御方よりふずくまゐり給ふ。沈の折敷四つ、紫檀のたかつき、藤のむらごの打敷にをりえだぬひたり。しろがねのやうき、瑠璃の御さかづき、甁子は紺瑠璃なり。兵衞督まかなひ仕うまつり給ふ。御盃まゐり給ふに、おとゞしきりてはびんなかるべし、宮達の御中に、はたさるべきおはせねば大將にゆづり聞え給ふを憚り申し給へど、御氣色もいかゞありけむ御盃捧げて、「をし」とのたまへるこわづかひもてなしさへ例のおほやけごとなれど人に似ず見ゆるも、けふはいとゞみなしさへ添ふにやあらむ。さし返し給はりて、おりて舞踏し給へる程いとたぐひなし。上臈のみ子達おとゞなどのたまはり給ふだに、めでたきことなるを、これはまして御婿にて、もてはやされ奉り給へる御おぼえおろかならず珍しきに、かぎりあればくだりたる座に歸りつき給ふ程、心苦しきまでぞなむ見えける。按察の大納言は我こそかゝるめも見むと思ひしか、ねたのわざやと思ひ居給へり。この宮の御母女御をぞ昔心かけ聞え給へりけるを參り給ひて後も猶思ひはなれぬさまに聞えかよはしなどし給ひて、はては宮をえ奉らむの心つきたりければ御後見望む氣色もらし申しけれど、聞し召しだに傳へずなりにければいと心やましと思ひて「人がらはげにちぎりことなめれど、なぞ時の帝のかくおどろおどろしきまで、むこかしづきし給ふべき、またあらじかし。九重の內におはします殿近きほどにて唯人の打ち解け侍ひて、はては宴や何やともてさわがるゝことは」などいみじうそしりつぶやき申し給ひけれど、さすがにゆかしければ參りて心の中にぞ腹立ちゐ給ひける。紙燭さして歌ども奉る。ぶんだいのもとによりつゝ、おくほどの氣色は