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めとぞ推し量るべき。げにいとかく幼きほどを見せ給へるも哀なれば例よりは物語などこまやかに聞え給ふほどに、暮れぬれば心やすく夜をだにふかすまじきを苦しう覺ゆれば、なげくなげく出で給ひぬ。「をかしの人の御にほひや。をりつればとかいふやうに鶯も尋ねぬべかめり」など煩しがる若き人もあり。夏にならば三條の宮ふたがる方になりぬべしと定めて、うづき朔日頃せちぶんとかいふこと、まだしきさきに渡し奉りぬ。あすとての日、藤壺にうへわたらせ給ひて藤の花の宴せさせ給ふ。南の廂の御簾あげて御いしたてたり。おほやけわざにて、あるじの宮の仕うまつり給ふにはあらず。上達部殿上人のきやうなど藏づかさより仕うまつれり。左のおとゞ、按察の大納言、藤中納言、左兵衞督、みこ達は三宮、常陸宮などさぶらひ給ふ。南の庭の藤の花のもとに殿上人の座はしたり。こうらう殿のひんがしにがくその人々召して暮れ行くほどに、さう調吹きて、うへの御あそびに宮の御方より御琴ども笛などいださせ給へば、おとゞをはじめ奉りてお前にとりつゝ參り給ふ。故六條院の御手づから書き給ひて入道宮に奉らせ給ひし、きんの譜二卷、五葉の枝につけたるをおとゞ取り給ひて奏し給ふ。つぎつぎに、きん、さうの御琴、琵琶、和琴など朱雀院のものどもなりけり。笛はかの夢につたへしいにしへのかたのみをまたなきものゝ音なりとめでさせ給ひければ、このをりのきよらより又はいつかははえばえしきついでのあらむとおぼして、とうで給へるなめり。おとゞ和琴、三宮琵琶、とりどりにたまふ。大將の御笛はけふぞ世になき音のかぎりは吹きたて給ひける。殿上人の中にもさうがにつきなからぬどもは召し出でつゝ、いとお