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しう」とのたまふ。劣るべうもあらぬ御程なるを只今のおぼえの華やかさにおぼしおごりておしたちもてなし給へるなめりかし。からうじてその曉に男にてうまれ給へるを、宮もいとかひあるさまにて嬉しくおぼしたり。大將殿も喜びに添へて嬉しくおぼす。よべおはしましたりしかしこまりに、やがてこの御よろこびも打ち添へてたちながら參り給へり。かく籠りおはしませば參り給はぬ人なし。御うぶやしなひ三日は例の唯宮の御わたくしごとにて、五日の夜、大將殿よりとんじき五十具、ごてのぜに、わうはんなどは世のつねのやうにて、こもちのお前のついかさね三十、ちごの御ぞいつへがさねにて御むつきなどぞことごとしからず忍びやかにしなし給へれど、こまかに見ればいとわざとめなれぬ心ばへにぞ見えける。宮のお前にも、せんかうのをしき、たかつきどもにて、ふずく參らせたまへり。女房のお前にはついかさねをばさるものにて、ひわりご三十、さまざましつくしたることゞもあり。人目にことごとしくはことさらしなし給はず。七日の夜はきさいの宮よりの御うぶやしなひなれば參り給ふ人々いと多かり。宮の大夫をはじめて殿上人上達部數知らず參り給へり。內にも聞し召して、宮の始めておとなび給ふなるにはいかでかはとのたまはせて御はかし奉らせ給へり。九日も、おほい殿より仕うまつらせ給へり。よろしからずおぼすあたりなれど宮のおぼさむ所あれば、御子の君達など參り給ひて、すべていと思ふことなげにめでたければ、御みづからも月頃物思はしく心ちの惱しきにつけても心ぼそうおぼしわたりつるに、かくおもだゝしう今めかしき事どもの多かれば少しは慰みもやし給ふらむ、大將殿は、かくのみお