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はして、御物忌などことつけ給ふを、かの殿にはうらめしくおぼして、おとゞうちより出で給ひけるまゝに此處に參り給へれば、宮ことごとしげなるさまして、「何しにいましつるぞとよ」とむつかり給へど、あなたに渡り給ひてたいめし給ふ。「ことなることなき程はこの院を見で久しうなり侍るも哀にこそ」など昔の御物語など少し聞え給ひて、やがてひきつれ聞え給ひて出で給ひぬ。御子どもの殿ばら、さらぬ上達部殿上人などもいと多くひき續き給へる、御いきほひこちたきを見るに、ならぶべくもあらぬぞくしいたかりける。人々のぞきて見奉りて、「さも淸らにおはしけるおとゞかな。さばかりいづれともなく若うさかりにて淸げにおはさうずる御子どもの似給ふべきもなかりけり。あなめでたや」といふもあり、又「さばかりやんごとなげなる御さまにて、わざと御迎に參り給へるこそにくけれ。やすげなの世や」など打ち歎くもあるべし。御自らもきし方を思ひ出づるよりはじめ、かの華やかなる御なからひに立ちまじるべくもあらず、かすかなる身のおぼえをといよいよ心ぼそければ、猶心安く籠り居なむのみこそめやすからめなどいとゞ覺え給ふ。はかなくて年も暮れぬ。むつきのつごもりがたより例ならぬさまに惱み給ふを、宮又御覽じ知らぬことにて、いかならむとおぼし歎きて、みずほふなど所々にてあまたせさせ給ふ。又々はじめそへさせ給ふ。いといたう煩ひ給へば、きさいの宮よりも御とぶらひあり。かくて三とせになりぬれど、一所の御志こそおろかならね。大かたの世にはものものしうももてなし聞え給はざりつるを、このをりぞ、いづこにもいづこにも聞し召し驚きて御とぶらひども聞え給ひける。中納言の君は宮