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れる絹綿などやうのもの阿闍梨におくらせ給ふ。尼君にもたまふ。法師ばら尼君のげすどもの料にとてぬのなどいふものをさへ召してたぶ。心ぼそき住ひなれど、かゝる御とぶらひたゆまざりければ身のほどには、いとめやすくしめやかにてなむ行ひける。木枯のたへがたきまで吹きとほしたるに、殘る梢もなくちりしきたる紅葉をふみ分けゝる跡も見えぬを見わたして、とみにもえ出で給はず。いと氣色ある深山木にやどりたる蔦の色ぞまだ殘りたる。こだになど少しひきとらせ給ひて宮へとおぼしくてもたせ給ふ。

 「やどり木と思ひいでずばこのもとの旅ねもいかにさびしからまし」とひとりごち給ふを聞きて、尼君、

 「荒れはつるくち木のもとをやどりきと思ひおきけるほどの悲しさ」。飽くまでふるめきたれど、故なくはあらぬをぞいさゝかの慰めにはおぼされける。宮に紅葉奉れ給へれば男宮おはしますほどなりけり。南の宮よりとて何心もなくもて參りたるを、女君例のむつかしきこともこそと苦しくおぼせど、とりかくさむやは。宮「をかしき蔦かな」とたゞならずのたまひてめしよせて見給ふ。御文には「日頃何事かおはしますらむ。山里に侍りていとゞ峯の朝霧に惑ひ侍りつる、御物語もみづからなむ。かしこの寢殿、堂になすべきこと阿闍梨に物しつけ侍りにき。御許し侍りてこそはほかに移すことも物し侍らめ。辨の尼君にさるべきおほせごとはつかはせ」などぞある。「よくもつれなく書き給へる文かな。まろありとぞ聞きつらむ」とのたまふも少しはげにさやありつらむ。女君はことなきを嬉しと思ひ給ふに、あなが