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はいかゞはおぼしよらむ。かぎりもなく人にのみかしづかれてならはせたまへれば、世の中のうちあはずさびしきこといかなるものとも知り給はぬ、ことわりなり。えんにそゞろさむく花の露を翫びて世はすぐすべきものとおぼしたる程よりは、思ほす人のためなれば、おのづからをりふしにつけつゝまめやかなることまでもあつかひ知らせ給ふこそ有難くめづらかなることなめれば、いでやなどそしらはしげに聞ゆる御めのとなどもありけり。わらはべなどのなりあざやかならぬ、をりをりうちまじりなどしたるを女君はいとはづかしう、なかなかなる住まひにもあるかななど人知れずはおぼすことなきにしもあらぬに、ましてこの頃は世に響きたる御有樣の華やかさに、かつは宮の內の人の見思ふらむことも人げなきことゝおぼし亂るゝこともそひて歎かしきを、中納言の君はいとよくおしはかり聞え給へば、うとからむあたりには見苦しうくだくだしかりぬべき心しらひのさまも、あなづるとはなけれど何かはことごとしくしたて顏ならむも、なかなか覺えなく見咎むる人やあらむとおぼすなりけり。今ぞ又例のめやすきさまのものどもなどせさせ給ひて御小袿織らせ綾のれう賜はせなどし給ひける。この君しもぞ宮にも劣り聞え給はず、さまことにかしづきたてられて、かたはなるまで心おごりもし世を思ひすまして、あてなる心ざまはこよなけれど、故みこの御山ずみをみそめ給ひしよりぞ、寂しき所のあはれさはさまことなりけりと心苦しうおぼされて、なべての世をも思ひめぐらし深きなさけをもならひ給ひにける。いとほしの人ならはしやとぞ。かくて猶いかでうしろやすくおとなしき人にてやみなむと思ふにもしたが