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て、母宮の御方に參り給ひて、「よろしきまうけのものどもやさぶらふ。つかふべきことなむ」と申したまへば、「例のたゝむ月の法事のれうに白きものどもなどやあらむ。染めたるなどは今はわざともしおかぬをいそぎてこそせさせめ」とのたまへば、「なにかことごとしきようにも侍らず、侍はむにしたがひて」とて、みくしげ殿などに問はせたまひて、女のさうぞくどもあまたくだりに淸げなる細長どもゝ、たゞあるにしたがひてたゞなる絹綾などとりぐしたまふ。みづからの御れうとおぼしきには、わが御料にありけるくれなゐのうちめなべてならぬに白き綾どもなどあまたかさね給へるに、袴のぐなかりけるにいかにしたるにかありけむ、こしのひとつありけるを引き結びくはへて、

「むすびける契ことなる下紐をたゞひとすぢにうらみやはする」。たいふの君とて、おとなおとなしき人のむつましげなる人につかはす。「とりあへぬさまの見苦しきを、つきづきしうもてかくしてなむ」とのたまひて、御料のは忍びやかなれど箱にてつゝみもことなり。御覽ぜさせねど、さきざきもかやうなる御心しらひは常の事にてめなれにたれば、氣色ばみかへしなどひこじろふべきにもあらねば、いかゞなども思ひ煩はで人々にとりちらしなどしたればおのおのさし縫ひなどす。若き人々のお前近う仕うまつるなどをぞ、とりわきてはつくろひたつべき。しもづかへどものいたうなえばみたりつる姿どもなど、白き袷などにてけちえんならぬぞなかなかめやすかりける。誰かは何事をも後見聞ゆる人のあらむ。宮はおろかならぬ御志の程にて萬をいかでとおぼしおきてたれど、こまかなるうちうちのことまで