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もぬぎかへ給ひてけれど怪しう心より外にぞ身にしみにける。「かばかりにてはのこりありてしもあらじ」と萬に聞きにくゝのたまひつゞくるに、心うくて身ぞおきどころなき。「思ひ聞ゆるさまことなるものを、我こそさきになどかやうにうち背くきはゝことにこそあれ。又御心おき給ふばかりのほどやはへぬる。思のほかにうかりける御心かな」とすべてまねぶべくもあらず、いといとほしげに聞え給へどともかくもいらへ給はぬさへいとねたくて、

 「また人になれける袖のうつりがを我が身にしめてうらみつるかな」。女はあさましうのたまひつゞくるに、いふべきかたもなくいかゞはとて、

 「見なれぬる中の衣とたのみしをかばかりにてやかけはなれなむ」とてうち泣き給へるけしきの限なう哀なるを見るにも、かゝればぞかしといとゞ心やましくて、我もほろほろとこぼし給ふぞ色めかしき御心なるや。誠にいみじきあやまちありともひたぶるにはえぞうとみはつまじく、らうたげに心苦しきさまのし給へればえも怨みはて給はず、のたまひさしつゝかつはこしらへ聞え給ふ。又の日も心のどかに大殿ごもり起きて御てうづ御かゆなどもこなたにまゐらす。御しつらひなどもさばかり輝くばかり高麗もろこしの錦綾をたちかさねたるめうつしには、よのつねにうちなれたる心ちして人々のすがたもなえばみたるうちまじりなどしていとしづかに見まはさる。君はなよゝかなるうす色どもに撫子のほそなが襲ねてうち亂れ給へる御さまの、何事もいとうるはしくことごとしきまで盛なる人の御よそひ、何くれに思ひくらぶれどけ劣りてもおぼえず。なつかしうをかしきは志のおろかな