Page:Kokubun taikan 02.pdf/440

提供:Wikisource
このページは校正済みです

いかにもいかにもかけていはざらなむ、たゞにこそ見めとおぼさるゝは、人にはいはせじわれひとり恨み聞えむとにやあらむ。いでや中納言殿のさばかり哀なる御心深さをなどそのかみの人々はいひあはせて、人の御すくせのあやしかりけることよといひあへり。宮はいと心苦しくおぼしながら色めかしき御心は、いかでめでたきさまに待ち思はれむと心げさうして、えならずたきしめ給へる御けはひいはむ方なし。まちつけ給へる所の有樣もいとをかしかりけり。人の御程さゝやかにあえかになどはあらでよきほどになりあひたる心ちし給へるを、いかならむものものしくあざやぎて心ばへもたをやかなるかたはなく物ほこりかになどやあらむ、さあらむこそうたてあるべけれなどおぼせど、さやうなる御けはひにはあらぬにや御志おろかなるべうもおぼされざりけり。秋の夜なれどふけにしかばにや程もなく明けぬ。歸り給ひても對へはふとも得渡り給はず。しばしおほとのごもりて起きてぞ御文書き給ふ。「御けしきけしうはあらぬなめり」とおまへなる人々つきじろふ。「對の御方こそ心苦しけれ。あめのしたにあまねき御心なりともおのづからけおさるゝこともありなむかし」などたゞにしもあらず皆馴れ仕う奉りたる人々なれば、やすからずうちいふことゞもありて、すべて猶妬げなるわざにぞありける。御返りもこなたにてこそはとおぼせど夜のほどの覺束なさも常のへだてよりはいかゞと心苦しければ急ぎわたり給ふ。ねくたれの御かたち、いとめでたくみどころありていり給へるに、ふしたるもうたてあれば少し起きあがりておはするに、打ち赤み給へる顏のにほひなど今朝しもことにをかしげさまさりて見え給へ