Page:Kokubun taikan 02.pdf/433

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ばれ、かの對の御方の惱み給ふなるとぶらひ聞えむ。今日はうちに參るべき日なれば日たけぬさきに」とのたまひて御さうぞくし給ふ。出で給ふまゝにおりて花の中にまじり給へるさまも殊更にえんだち色めきてももてなし給はねど、怪しうたゞうち見るになまめかしう耻しげにていみじうけしきだつ色ごのみどもになずらふべくもあらず、おのづからをかしうぞ見え給ひける。朝顏をひきよせ給ふに、露いたうこぼる。

 「けさのまの色にやめでむおく露の消えぬにかゝる花とみるみる。はかな」などひとりごちてをりても給へり。女郞花をばみすぎてぞ出で給ひぬる。明けはなるゝまゝに霧たちみちたる空をかしきに、女どちはしどけなくあさいし給へらむかし、格子妻戶などうちたゝきこわづくらむこそうひうひしかるべけれ、あさまだきまだき來にけりと思ひながら、人めして中門のあきたるより見せ給へば「み格子ども皆まゐりて侍るべし。女房のけはひなどし侍りつ」と申せば、おりて霧のまぎれにさまよく步み入り給へるを、宮の忍びたる所より歸り給へるにやと見るに、露にうちしめり給へるかをり例のいとさまことに匂ひくれば猶めざましうおはすかし。「心をあまりをさめ給へるこそにくけれ」などあいなく若き人々などは聞えあへり。驚きがほにもあらずよきほどに打ちそよめきて御しとねさし出でなどするさまもいとめやすし。「これに侍へと許させ給ふほどは人々しきこゝちすれど、猶かゝるみすのまへにさし放たせ給へるうれはしさになむしばしばも得さぶらはぬ」とのたまへば、さらばいかゞは侍るべからむ」と聞ゆ。北おもてなどやうのかくれぞかし。「かゝるふるびとなど