Page:Kokubun taikan 02.pdf/422

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ふ。同じゆかりに珍しげなくともこの中納言をこそ人に讓らむが口惜しきに、さもやなしてまし、年頃人しれぬものに思ひけむ人をもなくなして物心ぼそくながめ居給ふなるをなどおぼしよりて、さるべき人して氣色とらせ給ひけれど、世のはかなさを目に近く見しにいと心憂く身もゆゝしくおぼゆれば、いかにもいかにもさやうの有樣は物うくなむとすさまじげなるよし聞き給ひて、いかでかこの君さへおふなおふなこと出づることを、物憂くはもてなすべきぞと恨み給ひけれど、親しき御中らひながらも、人ざまのいと心はづかしげに物し給へば、え强ひても聞え動かし給はざりけり。花盛の程二條院の櫻を見やり給ふに、ぬしなき宿のとまづ思ひやられ給へば、「心やすくや」などひとりごちあまりて、宮の御許に參り給へり。こゝがちにおはしまし着きていとようすみ馴れ給ひにたれば、めやすのわざやと見奉るものから、例のいかにぞや覺ゆる心のそひたるぞあやしきや。されどじちの御心ばへはいとあはれに後やすくぞ思ひ聞え給ひける。何くれと御物語聞えかはし給ひて、夕つかた宮はうちへ參り給はむとて、御車のさうぞくして人々多く參り集まりなどすれば、立ち出で給ひて對の御方へ參りたまへり。山里のけはひひきかへて御簾の內心にくゝ住みなして、をかしげなるわらはのすきかげほのみゆるして御せうそこ聞え給へれば、御褥さし出でゝ、昔の心しれる人なるべし、出で來て御返りきこゆ。「朝夕のへだてもあるまじう思ひ給へらるゝほどながら、その事となくて聞えさせむも、なかなかなれなれしきとがめもやとつゝみ侍る程に、世の中變りにたる心ちのみぞし侍るや。おまへの梢も霞へだてゝ見え侍るに、あはれな