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ひしみて物し給へれば、誰も誰もいみじうことわりを聞えしらせつゝ、物ごしにてぞ日ごろのをこたり盡せずのたまふをつくづくと聞き居給へる。これもいとあるかなきかにて、後れ給ふまじきにやと聞ゆる御けはひの心苦しさを、後めたういみじと宮もおぼしたり。今日は御身を捨てゝとまり給ひぬ。物ごしならでといたくわび給へど、「今少し物おぼゆる程にて侍らば」とのみ聞え給ひてつれなきを、中納言も氣色聞き給ひて、さるべき人めし出でゝ、「御有樣にたがひて心淺きやうなる御もてなしの、昔も今も心うかりける月ごろの罪は、さも思ひ聞え給ひぬべきことなれど、にくからぬさまにこそかうがへ奉り給はめ。かやうなる事まだ見知らぬ御心にて苦しうおぼすらむ」など、忍びてさかしがり給へば、いよいよこの君の御心も恥しうて、え聞え給はず。「あさましう心憂くおはしけり。聞えしさまをもむげに忘れ給ひけること」とおろかならず歎きくらし給へり。よるの氣色いとゞ烈しき風の音に、人やりならず歎きふし給へるもさすがにて、例の物へだてゝ聞え給ふ。ちゞのやしろをひきかけて、行くさき長きことを契り聞え給ふも、いかでかくくちなれ給ひけむと心憂けれど、よそにてつれなき程の疎ましさより、あはれに人の心もたをやぎぬべき御さまを、ひとかたにもえうとみはつまじかりけりと、唯つくづくと聞き給ひて、

 「きしかたを思ひいづるもはかなきを行く末かけてなにたのむらむ」とほのかにのたまふ。なかなかいぶせう心もとなし。

 「行く末をみじかきものと思ひなばめのまへにだにそむかざらなむ。何事もいとかうみ