Page:Kokubun taikan 02.pdf/406

提供:Wikisource
このページは校正済みです

を念じ給へど、いとゞ思ひのどめむ方なくのみあれば、いふかひなくて、ひたぶるに煙にだになしはてゝむとおもほして、とかく例の作法どもするぞあさましかりける。空を步むやうにたゞよひつゝ、限のありさまさへはかなげにて、煙も多くむすぼゝれ給はずなりぬるもあへなしとあきれてかへり給ひぬ。御いみに籠れる人かず多くて、心ぼそさは少し紛れぬべけれど、中の君は人の見思ふらむことも恥しき身の心うさを思ひ沈み給ひて、又なき人に見え給ふ。宮よりも御とぶらひいと繁く奉れ給ふ。思はずにつらしと思ひ聞え給へりしけしきもおぼしなほらで止みぬるをおぼすに、いと憂き人の御ゆかりなり。中納言、かく世のいと心憂く覺ゆるついでにほい遂げむとおぼさるれど、三條の宮のおぼさむ事にはゞかり、この君の御事の心苦しさとに思ひみだれて、かののたまひしやうにて、かたみにも見るべかりけるものを、したの心は身を分け給へりとも、うつろふべくはおぼえざりしを、かう物思はせ奉るよりは唯うち語らひて、盡きせぬなぐさめにも見奉り通はましものをなどおぼす。かりそめに京にも出で給はず、かき絕え慰む方なくて籠りおはするを、世の人もおろかならず思ひ給へることゝ見聞きて、うちよりはじめ奉りて、御とぶらひ多かり。はかなくて日ごろは過ぎ行く。七日々々の事どもいとたふとくせさせ給ひつゝ、おろかならずけうじ給へど、かぎりあれば、御ぞの色のかはらぬを、かの御方の心よせわきたりし人々の、いとくろう着かへたるをほの見給ふも、

 「くれなゐにおつる淚もかひなきはかたみの色をそめぬなりけり」。ゆるし色のこほりと