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とおぼす。「御心につきておぼす人あらばこゝにまゐらせて、例ざまにのどやかにもてなし給へ。すぢことに思ひ聞えたまへるに、かるびたるやうに人の聞ゆべかめるも、いとなむ口惜しき」と大宮は明暮聞え給ふ。時雨いたくしてのどやかなる日、女一宮の御方に參り給へれば、お前に人多くもさぶらはず、しめやかに御繪など御覽ずる程なり。御几帳ばかり隔てゝ、御物語聞え給ふ。限もなくあてにけだかきものから、なよびかにをかしき御けはひを、年ごろ二つなきものに思ひ聞え給ひて、又この有樣になずらふ人世にありなむや、冷泉院の姬君ばかりこそ、御おぼえの程內々の御けはひも心にくゝ聞ゆれど、うちいでむ方もなくおぼしわたるに、かの山里人は、らうたげにあてなる方の劣り聞ゆまじきぞかしなどまづ思ひ出づるに、いとゞ戀しさまさるなぐさめに御繪どものあまたちりたるを見給へば、をかしげなる女繪どもの、戀する男のすまひなどかきまぜ、山里のをかしき家居など心々に世の有樣書きたるを、よそへらるゝこと多くて御目とまり給へば、少し聞え給ひて、かしこへ奉らむとおぼす。在五が物語を書きて、妹にきん敎へたる所の、人のむすばむといひたるを見て、いかゞおぼすらむ、少し近く參りより給ひて、「いにしへの人もさるべき程は隔なくこそならはして侍りけれ。いとうとうとしうのみもてなさせ給ふこそ」と忍びて聞え給へば、いかなる繪にかとおぼすに、おしまきよせてお前にさし入れ給へるを、うつぶして御覽ずるみぐしのうち靡きてこぼれ出でたるかたそばばかりほのかに見奉り給ふが、飽かずめでたく、少し物のへだてたる人と思ひ聞えましかばとおぼすに、忍びがたくて、