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らしくをかしきさまを、明暮のみものにて、いかで人々しうも見なし奉らむと思ひあつかふをこそ、人知れぬ行く先のたのみにも思ひつれ、限なき人にものし給ふとも、かばかり人わらへなるめを見てむ人の、世の中に立ちまじり、例の人ざまにて經給はむは、類ひ少く心憂からむなどおぼし續くるに、いふかひもなく、この世には聊思ひ慰む方なくて過ぎぬべき身どもなめりと、心ぼそくおぼす。宮は立ちかへり、例のやうに忍びてと出で立ち給ひけるを、「內にかゝる御忍びごとにより山里の御ありきもゆくりかにおぼし立つなりけり。かるがるしき御有樣と、世人もしたに譏り申すなり」と衞門督の漏し申し給ひければ、中宮も聞しめし歎き、うへもいとゞゆるさぬ御氣色にて、大方心に任せ給へる御里住みのあしきなりけりときびしき事ども出で來て、內につと侍らはせ奉り給ふ。左の大臣殿の六の君をうけひかずおぼしたることなれど、おしたちて參らせ給ふべく皆定めらる、中納言殿聞き給ひてあいなく物を思ひありき給ふ。我があまりことやうなるぞや、さるべき契やありけむ、みこのうしろめたしとおぼしたりしさまもあはれに忘れがたく、この君達の御有樣けはひもことなる事なくて、世に衰へ給はむことの惜しくもおぼゆるあまりに、人々しうもてなさばやとあやしきまでもてあつかはるゝに、宮もあやにくにとりもちてせめ給ひしかば、我が思ふかたはことなるにゆづらるゝ有樣もあいなくて、かくもてなしてしを思へばくやしくもありけるかな、いづれも我が物にて見奉らむに咎むべき人もなしかし、取り返すものならねどをこがましう心ひとつに思ひ亂れ給ふ。宮はまして御心にかゝらぬをりなく戀しううしろめたし