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思ひ給ふらむ、こゝにも殊に耻かしげなる人はうち交らねど、おのおの思ふらむが人わらへにをこがましき事と思ひ亂れ給ふに、心地も違ひていと惱しうおぼえ給ふ。さうじみはたまさかに對面し給ふ時、限なく深きことをたのめ契り給へれば、さりともこよなうはおぼし變らじと、覺束なきもわりなきさばかりこそは物し給ふらめと、心の中に思ひ慰め給ふかたあり。程經にけるが思ひ入られ給はぬにしもあらぬに、なかなかにてうち過ぎ給ひぬるを、つらうも口惜しうもおもほゆるに、いとゞ物あはれなり。忍びがたき御氣色なるを、人なみなみにもてなして、例の人めきたる住ひならば、かうやうにもてなし給ふまじきをなど、姉君はいとゞしくあはれと見奉り給ふ。我も世にながらへばかうやうなる事見つべきにこそはあめれ、中納言の、とざまかうざまにいひありき給ふも、人の心を見むとなりけり、心ひとつにもてはなれて思ふともこしらへやる限こそあれ、或人のこりずまにかゝる筋のことをのみいかでと思ひためれば、心より外に遂にもてなされぬべかめり、これこそは返す返すもさる心ちして、世をすぐせとのたまひおきしは、かゝる事もやあらむのいさめなりけれ、さもこそは憂き身どもにてさるべき人々にも後れ奉らめ、やうのものと人わらへなる事を添ふる有樣にて、なき御影をさへ惱し奉らむがいみじさ、猶我だにさる物思ひにしづまず、罪などいと深からぬさきにいかでなくなりなむとおぼし沈むに、心ちも誠に苦しければ、物も露ばかり參らず、たゞなからむ後のあらましごとを明暮思ひ續け給ふに物心ぼそくて、この君を見奉り給ふもいと心苦しう、我にさへ後れ給ひていかにいみじう慰むる方なからむ、あた