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でつくろひつゝ聞え給へば、いらへもし給はねど、さすがにかくおぼしのたまふが、げにうしろめたく惡しかれともおぼしおきてじを、人わらへに見苦しきことそひて、見あつかはれ奉らむがいみじきを、よろづに思ひ居給へり。さる心もなくあきれ給へりしけはひだになべてならずをかしかりしを、まいて少し世の常になよび給へるは御志もまさるに、たはやすく通ひ給はざらむ山道のはるけさも、胸いたきまでおぼして、心深げにかたらひたのめ給へど、あはれともいかにとも思ひわき給はず。いひしらずかしづくものゝ姬君も、少し世の常の人げ近く親せうとなどいひつゝ、人のたゝずまひをも見なれ給へるは、物の恥しさもなのめにやあらむ。家にあがめ聞ゆる人こそなけれ、かく山ふかき御あたりなれば、人に遠く物深くてならひ給へるこゝちに、思ひかけぬ有樣のつゝましく耻しく、何事も世の人に似ずあやしう田舍びたらむかしとはかなき御いらへにてもいひ出でむ方なくつゝみ給へり。さるはこの君しもぞらうらうしくかどある方のにほひはまさり給へる。三日にあたる夜は「もちひなむ參る」と人々の聞ゆれば、殊更にさるべき祝ひのことにこそはとおぼして、御前にてせさせ給ふもたどたどしう、かつはおとなになりておきて給ふも、人の見るらむこと惲られて、おもてうち赤めておはするさま、いとをかしげなり。このかみ心にや、のどかにけ高きものから、人のためあはれになさけなさけしうぞおはしける。中納言殿より、「よべ參らむと思ひ給へしかど、宮仕のらうもしるしなげなめる世に、思う給へ恨みてなむ。今夜はざうやくもやと思ひ給へれど、殿居所のはしたなげに侍りし、亂り心地いとゞ安からでやすらはれ侍