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思はしうて我さかし人にて聞えむもいとつゝましければ、まめやかにあるべきやうをいみじくせめて書かせ奉り給ふ。しをん色の細長ひとかさねに、みへがさねの袴具してたまふ。御使苦しげに思ひたれば、つゝませて供なる人になむ送らせ給ふ。ことごとしき御使にもあらず、例奉れ給ふうへわらはなり。殊更に人に氣色もらさじとおぼしければ、よべのさかしがりしおい人のしわざなりけりとものしくなむ聞しめしける。その夜もかのしるべさそひ給へど、「冷泉院に必ず侍ふべき事侍れば」とてとまり給ひぬ。例のことにふれてすさまじげによをもてなすとにくゝおぼす。いかゞはせむ、ほいならざりし事とて、おろかにやはと思ひよわり給ひて、御しつらひなどうちあはぬすみかのさまなれど、さる方にをかしくしなして待ち聞え給ひけり。遙なる御中道を、急ぎおはしましたりけるも、嬉しきわざなるぞかつはあやしき。さうじみは我にもあらぬさまにて、つくろはれ奉りたまふまゝに、濃き御ぞのいたくぬるれば、さかし人もうちなきつゝ、「世の中に久しくもとおぼえ侍らねば、明暮のながめにも唯御事をのみなむ心苦しう思ひ聞ゆるに、この人々もよかるべきさまのことゝ、聞きにくきまでいひしらすめれば、年經たる心どもには、さりとも世のことわりをも知りたらむはかばかしくもあらぬ心ひとつをたてゝ、かうでのみやは見奉らむと思ひなるやうもありしかど、只今かく思ひもあへず恥しきことゞもに亂れ思ふべくは更に思ひかけ侍らざりしに、これやげに人のいふめる遁れ難き御契なりけむ。いとこそ苦しけれ。少しおぼし慰みなむに、知らざりしさまをも聞えむ。にくしとなおぼしいりそ、罪もぞ得給ふ」とみぐしをな