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る」と、みちのくに紙においつき書き給ひて、まうけのものどもこまやかに縫ひなどもせざりけるいろいろおしまきなどしつゝ、みそ櫃あまたかけごにいれて、おい人のもとに、人々の料にとて賜へり。宮の御方にさぶらひけるに從ひていと多くもえとり集め給はざりけるにやあらむ、たゞなる絹綾など、したには入れかくしつゝ、御料とおぼしき二くだり、いと淸らにしたるを、單衣の御ぞの袖に、こだいのことなれど、

 「さよ衣きてなれきとはいはずともかごとばかりはかけずしもあらじ」とおどし聞え給へり。こなたかなたゆかしげなき御ことを、恥しういとゞ見給ひて、御かへりもいかゞ聞えむとおぼし煩ふほど、御使かたへはにげかくれにけり。あやしきしも人をひかへてぞ御かへしたまふ。

 「へだてなき心ばかりはかよふともなれし袖とはかけじとぞ思ふ」。心あわたゞしく思ひ亂れ給へる名殘に、いとゞなほなほしきをおぼしけるまゝと、待ち見給ふ人は唯あはれにぞ思ひなされ給ふ。宮はその夜內に參り給うて、えまかで給ふまじげなるを、人知れず御心もそらにておぼし歎きたるに、中宮「猶かくひとりおはしまして世の中にすい給へる御名のやうやう聞ゆる、猶いと惡しき事なり。何事も物好ましく立てたる心なつかひ給ひそ。上もうしろめたげにおぼしの給ふ」と里ずみがちにおはしますを諫め聞え給へば、いと苦しとおぼして、御殿居所に出で給ひて御文かきて奉れ給へる。名殘もいたくうちながめておはしますに中納言の君參り給えり。そなたの心よせとおぼせば例よりも嬉しうて、「いかゞすべき、い