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ふを、ことわりなるよしを、つぶつぶと聞ゆれば、いらへもし給はずうち歎きていかにもてなすべき身にかは、ひと所おはせましかば、ともかくもさるべき人にあつかはれ奉りて、宿世といふなる方につけて身を心ともせぬよなれば、皆例のことにてこそは人わらへになるとがをも隱すなれ、あるかぎりの人は年つもりさかしげにおのがじしは思ひつゝ、心をやりて似つかはしげなる事を聞えしらすれど、こははかばかしきことかは、人めかしからぬ心どもにて、唯一方にいふにこそはと見給へば、引き動しつばかりきこえあへるも、いと心憂くうとましうてだうぜられ給はず。同じ心に何事も語らひ聞え給ふ。中の君はかゝるすぢには今少し心もえず、おほどかにて何とも聞きいれ給はねば「あやしうもありける身かな」と唯奧ざまに向きておはす。「例の色の御ぞども、奉りかへよ」などそゝのかし聞えつゝ皆さる心すべかめる氣色を、あさましく、げに何のさはり所かはあらむ、ほどもなくてかゝる御住ひのかひなき、山なしの花ぞのがれむ方なかりける。まらうどは、かくけしように、これかれにも口入れさせず、忍びやかにいつありそめけむことゝもなく、もてなしてこそと思ひそめける事なれば、御心ゆるし給はずば、いつもいつもかくてすぐさむとおぼしのたまふを、このおい人のおのがじゝ語らひてけしようにさゝめきなどす。さはいへど深からぬけにや、老いひがめるにや、いとほしくぞ見ゆる。姬君おぼし煩ひて、辨が參れるにのたまふ。「年比も人に似ぬ御心よせとのみのたまひわたりしを聞きおき、今となりてはよろづにのこりなく賴み聞えて、あやしきまでうちとけにたるを、思ひしにたがふさまなる御心ばへのまじりて恨み