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む、劣りざまならむにてだにさても見そめてはあさはかにはもてなすまじき心なめるを、ましてほのかにも見そめては慰みなむ、ことに出でゝはいかでかは、ふとさる事をまちとる人のあらむ、ほいになむあらぬとうけひく氣色のなかなるは、かたへは人の思はむ事をあいなう、淺き方にやなどつゝみ給ふならむと覺しかまふるを、氣色だに知らせ給はずば、罪もやえむと身をつみていとほしければ、よろづにうち語らひて、「昔の御おもむけも、世の中をかく心ぼそうて過ぐしはつとも、なかなか人わらへにかるがるしき心つかふななどのたまひおきしを、おはせし世の御ほだしにて行ひの御心を亂りし罪だにいみじかりけむを、今はとてさばかりのたまひし一言をだにたがへじと思ひ侍れば、心ぼそくなどもことに思はぬをこの人々のあやしう心ごはきものににくむめるこそいとわりなけれ。げにさのみやうのものと過ぐし給はむも、明け暮るゝ月日にそへても、御事をのみこそあたらしう心苦しう悲しきものに思ひ聞ゆるを、君だに世の常にもてなし給ひて、かゝる身の有樣もおもだゝしく慰むばかり見奉りなさばや」と聞え給へば、いかにおぼすにかと心憂くて「ひと所をのみやは、さて世にはて給へとは聞え給ひけむ。はかばかしくもあらぬ身のうしろめたさは、數そひたるやうにこそおぼされためりしか。心細き御なぐさめには、かう朝夕に見奉るよりいかなる方にか」となま怨めしく思ひ給へれば、げにといとほしうて、「猶これかれうたてひがひがしきものにいひ思ふべかめるにつけて思ひ亂れ侍るぞや」といひさし給ひつ。暮れ行くに、まらうどはかへり給はず。姬君いとむつかしとおぼす。辨參りて、御消息ども聞え傅へて、恨み給