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すまじくなむ。世の常になよびかなるすぢにもあらずや。只かように物隔て事のこいたるさまならずさしむかひてとにかくに定めなき世の物語を隔なく聞えて、つゝみ給ふ御心の隈殘らずもてなし給はむなむはらからなどのさやうにむつまじき程なるもなくて、いとさうざうしくなむ。世の中の思ふ事のあはれにもをかしうもうれはしうも、時につけたる有樣を心にこめてのみ過ぐる身なれば、さすがにたづきなくおぼゆるに疎かるまじう賴み聞ゆる。きさいの宮はたなれなれしうさやうにそこはかとなき思のまゝなるくだくだしさを、聞えふるべきにもあらず。三條の宮は親と思ひ聞ゆべきにもあらぬ御わかわかしさなれど、限あればたやすくなれ聞えさせずかし。その外の女はすべていと疎くつゝましう恐しうおぼえて心からよるべなく心ぼそきなり。なほざりのすさびにてもけさうだちたることはいとまばゆくありつかず、はしたなきこちごちしさにて、まいて心にしめたる方のことは、うち出づることも難くてうらめしうもいぶせくも思ひ聞ゆる氣色をだに見え奉らぬこそ、我ながら限なくかたくなしきわざなれ。宮の御事をも、さりともあしざまには聞えじと任せてやは見給はぬ」などいひ居給へり。おい人はた、かばかり心ぼそきにあらまほしげなる御有樣を、いとせちにさもあらせ奉らばやと思へど、いづかたも恥しげなる御有樣どもなれば思のまゝにはえ聞えず。今宵はとまり給ひて物語などのどやかに聞えまほしうてやすらひ暮し給ひつ。あざやかならず物恨みがちなる御氣色やうやうわりなくなりゆけば、わづらはしうてうちとけて聞え給はむ事も、いよいよ苦しけれど、大方にてはありがたうあはれなる人の御