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ければ、とに立てたる屛風をひきやりて見給ふ。こゝもとに几帳をそへ立てたる、あな口をしと思ひてひきかへるをりしも、風の簾垂をいたう吹きあぐべかめれば、「あらはにもこそあれ。その御几帳おし出でゝこそ」といふ人あなり。をこがましきものゝ嬉しうて見給へば、高きも短きも、几帳をふたまのすに押し寄せて、このさうじに向ひて、あきたるさうじよりあなたにとほらむとなりけり。まづ一人たち出でゝ、几帳よりさしのぞきて、この御供の人々のとかう行きちがひ凉みあへるを見給ふなりけり。濃きにび色のひとへに、くわざうの袴のもてはやしたる、なかなかさまかはりて、花やかなりと見ゆるは、着なし給へる人がらなめり。帶はかなげにしなして、珠數ひき隱しても給へり。いとそびやかに、やうだいをかしげなる人の、かみうちきに少したへぬ程ならむと見えて、末まで塵のまよひなく、つやつやとこちたう美くしげなり。かたはらめなどあならうたげと見えて、匂ひやかにやはらかにおほどきたるけはひ、女一宮もかうざまにぞおはすべきとほの見奉りしも思ひくらべられてうちなげかる。またゐざり出でゝ、かのさうじはあらはにもこそあれと見おこせ給へる用意、うちとけたらぬさまして、よしあらむとおぼゆ。頭つきかんざしのほど、今少しあてになまめかしきさまなり。「あなたに屛風も添へて立てゝ侍りつ。急ぎてしものぞき給はじ」と若き人々何心なくいふあり。「いみじうもあるべきわざかな」とて、うしろめたげにゐざり入り給ふ程、け高う心にくきけはひ添ひて見ゆ。黑きあはせ一かさね同じやうなる色あひを着給へれど、これはなつかしうなまめきて、哀げに心苦しうおぼゆ。髮さばらかなる程に落ちたる