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て女房のつぼねまでこまかにしつらひ磨かせ給へり。內に參り給ふ人の作法をまねびてかの院よりも御調度などはこばる。渡り給ふ儀式いへば更なり、御送に上達部など數多參り給ふ。かのけいし望み給ひし大納言も安からず思ひながらさぶらひ給ふ。御車よせたる所に院わたり給ひておろし奉り給ふほどなども例には違ひたる事どもなり。たゞ人におはすれば萬の事かぎりありてうちまゐりにも似ず。婿の大君といはむにも、ことたがへて珍しき御中のあはひどもになむ。三日が程はかの院よりもあるじの院方よりも嚴めしく珍しきみやびを盡し給ふ。對の上もことに觸れてたゞにもおぼされぬ世の有樣なり。げにかゝるにつけてもこよなく人に劣りけたるゝこともあるまじけれど、又ならぶ人なくならひ給ひて華やかにおひさき遠くあなづりにくきけはひにてうつろひ給へるに、なまはしたなくおぼさるれどつれなくのみもてなして、御わたりのほどももろ心にはかなきこともしいで給ひていとらうたげなる御有樣をいとゞありがたしと思ひ聞え給ふ。姬宮はげにまだいとちひさくかたなりにおはする內にもいといはけなき御氣色してひたみちに若び給へり。かの紫のゆかり尋ねとり給へりしをりおぼし出づるに、かれはざれていふかひありしを、これはいといはけなくのみ見え給へば、よかめり、にくげにおしたちたることなどはあるまじかめりとおぼすものから、いとあまり物のはえなき御さまかなと見奉り給ふ。三日が程は夜がれなく渡り給ふを、年比さもならひ給はぬ心地に忍ぶれどなほ物哀なり。御ぞどもなどいよいよたきしめさせ給ふものから打ち眺めてものし給ふ氣色いみじくらうたげにをかし。などて萬の事