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ふらむ。をさなくて院にもおくれ奉り母宮のしどけなうおふしたて給へれど、猶人には優るべきにこそはあめれ」とて、かんの君はこの君達の手など惡しきことを辱め給ふ。返事げにいと若く「よべは水うまやをなむ人々咎め聞ゆめりし。

  竹河に夜をふかさじといそぎしもいかなるふしを思ひおかまし」。げにこのふしをはじめにて、この君の御曹司におはしてけしきばみよる。少將の推し量りもしるく皆人心よせたり。侍從の君も若き心地に近きゆかりにて明暮むつびまほしう思ひけり。三月になりて咲く櫻あれば散りかひくもり、大方の盛なるころのどやかにおはする所にはまぎるゝことなく端ぢかなる罪もあるまじかめり。そのころ十八九の程にやおはしけむ、御かたちも心ばへもとりどりにぞをかしき。姬君はいとあざやかにけだかう今めかしきさまし給ひてげにたゞ人にてみ奉らばにげなふぞ見え給ふ。櫻の細長山吹などの折にあひたる色あひの、なつかしき程に重りたるすそまで愛敬のこぼれ落ちたるやうに見ゆる、御もてなしなどもらうらうじう心耻しきけさへそひ給へり。今一所は薄紅梅にみぐし色にて柳の絲のやうにたをたをと見ゆ。いとそびやかになまめかしうすみたるさましておもりかに心深きけは優り給へれど、匂ひやかなるけはひはこよなしとぞ人思へる。碁うち給ふとてさし向ひ給へるかんざしみぐしのかゝりたるさまどもいと見所あり。侍從の君けんそし給ふとて近う侍らひ給ふに、兄君達さしのぞき給ひて「侍從のおぼえこよなくなりにけり。御碁のけんそ許されにけるをや」とておとなおとなしきさましてつい居給へば、お前なる人々とかう居なほる。中將