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よといましめ侍る」など聞え給ふ。「今はかく世にふる數にもあらぬやうになりゆく有樣をおぼしかずまふるになむ、過ぎにし御事もいとゞ忘れがたく思う給へられける」と申し給ひけるついでに、院よりのたまはすることほのめかし聞え給ふ。「はかばかしう後見なき人のまじらひはなかなか見苦るしきをとかたかた思ひ給へなむわづらふ」と申し給へば「內に仰せらるゝことのあるやうにうけ給はりしを、いづ方に思ほし定むべきことにか、院はげに御位を去らせ給へるにこそさかり過ぎたる心地すれど、世にありがたき御ありさまはふりがたくのみおはしますめるをよろしうおひ出づる女子侍らましかばと思ひ給へよりながら、耻しげなる御中に交らふべきものゝ侍らでなむ口惜しう思う給へらるゝ。そもそも女一宮の女御は許し聞え給ふや、さきざきの人さやうのはゞかりにより滯る事も侍りし」と申し給へば「女御なむつれづれにのどかになりにたる有樣も同じ心にうしろみて慰めまほしきをなど、かのすゝめ給ふにつけていかゞなどだに思う給へよるになむ」と聞え給ふ。これかれこゝに集り給ひて三條の宮に參り給ふ。朱雀院の深き心物し給ふ人々六條院の方ざまのもかたかたにつけて猶かの入道宮をばえよぎずまゐり給ふなめり。この殿の左近中將、右中辨、侍從の君などもやがておとゞの御供に出で給ひぬ。ひきつれ給へる勢ひことなり。ゆふつけて四位の侍從參り給へり。そこらおとなしき若君達もあまたさまざまにいづれかはわろびたりつる。皆めやすかりつる中に立ち後れてこの君のたち出で給へる、いとこよなくめとまる心ちして例の物めでする若き人達は「猶異なりけり」などいふ。「この殿の姬君の御傍には