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とて北の方そひてさぶらひ給ふは誠に限もなく思ひかしづき後見聞えたまふ。殿はつれづれなる心地して西の御かたはひとつに習ひ給ひていとさうざうしうながめ給ふ。東の姬君の疎々しくかたみにもてなし給はでよるよるは一所に御殿ごもりよろづの御ことならひはかなき御遊びわざをもこなたを師のやうに思ひ聞えてぞ誰も習ひ遊び給ひける。物はぢを世のつねならずし給ひて母北の方にだにさやかにはをさをささし向ひ奉り給はず、かたはなるまでもてなし給ふものから心ばへけはひのうもれたるさまならず愛敬づき給へることはた人よりもすぐれ給へり。かくうちまゐりや何やと我がかたざまをのみ思ひ急ぐやうなるも心苦しきなどおぼして「さるべからむさまをおぼし定めての給へ。おなじことゝこそ仕うまつらめ」と母君にも聞え給ひけれど「更にさやうの世づきたるさま思ひたつべきにもあらぬ氣色なればなかなかならむことは心苦しかるべし、御宿世にまかせて世にあらむかぎりは見奉らむ、後ぞ哀にうしろめたけれど世をそむくかたにてもおのづから人笑へにあはつけき事なくて過ぐし給はなむ」などうちなきて御心ばせの思ふやうなることをぞ聞え給ふ。いづれもわかず親がり給へど御かたちを見ばやとゆかしうおぼしてかくれ給ふこそ心憂けれと恨みて、人知れず見え給ひぬべしやとのぞきありき給へど絕えてかたそばをだにえ見奉り給はず。「上おはせぬほどは立ちかはりて參りくべきを疎々しくおぼしわくる御氣色なれば心うくこそ」など聞えてみすの前に居給へば御いらへなどほのかに聞え給ふ。御聲けはひなどあでにをかしうさまかたち思ひやられて哀に覺ゆる人の御ありさまなり。「君が御姬